いんたーみっしょん 


 絹張りのカウチの中で、魔王はごそごそ身動きした。
 「どうにも、ヒマだな…」
 ぽそりと呟く。
 すこし声が嗄れているのは、たぶん歌いすぎたせいだろう。
 自ら作詞作曲した、あの歌を。
 首に巻かれた包帯の中で、うすくそぎ切ったダイコンが喉に当ててある。
 「むう」
 飲んでいた生姜の搾り汁のカップを、横手のティーテーブルに置いた。
 代わりに雑誌を取り上げながら、壁際に控えているテディ頭を手招く。
 「ヨグムンド」
 「ハイ、ますたー」
 「まずい。もっとハチミツを入れてくれ」
 「カシコマリマシタ」
 テディがするする進み出た。
 盆の上のビンを取り、とろりとした金色の蜜をカップに注ぐ。
 ついでに湯も足して、銀のスプーンで静かにかきまぜた。
 雑誌をパラパラめくっている主に、ソーサーごと差し出す。
 「ドウゾ」
 「うむ」
 魔王は受け取ってひとくち含み、
 「…やはりまずいな。
 「まあ、仕方ないか。今の季節、この辺りでは生姜の出物がないからな…」
 鼻をつまんで一気飲みした。
 「サヨウデ」
 そういう問題かどうかわからなかったが、使い魔は従順に頭を下げた。
 魔王は口直しとばかり、カゴに盛られたミニドーナツに手を伸ばす。
 「むっ。
 「うまい。絶妙な甘さだ」
 「アリガトウゾンジマス、料理番ガ喜ブデショウ」
 「今日のおやつ当番は誰だ?」
 「12号てでぃノう゛ぁんきすデス。夕食モ担当イタシマス」
 「12号…
 「新しめのナンバーだな」
 「ハイ。
 「8号てでぃノめりあんてガ中華ノ調理中ニ炎上、殉職イタシマシタノデ、
カワリニ召喚シテイタダイタ者デス。
 「少々気短カデスガ、料理人…イエ、料理てでぃトシテハナカナカ見所ガ
アルカトゾンジマス」
 「そうか。
 「励むようにと伝えてくれ」
 「ハ」
 しばし沈黙が落ちた。
 時折ページを繰る音のほか、室内はひんやりした静謐に包まれていた。
 「…ヨグムンド」
 「ハ」
 「夕食のメニューは?」
 魔王は長いこと黙っていられない。
 「本日ハ…
 「ぐりんぴーすトぶろっこりーヲ裏ゴシシタ冷製すーぷ、
 「いんげんトごぼうノ鶏ぜらちん寄セ、
 「温野菜ノさらだニすずきノぱい、
 「ソレニたんしちゅー…
 「でざーとハあいすくりーむ3種デゴザイマス。ぱんハ私ガ焼キマシタ」
 「そうか、楽しみだな。
 「そうだな…ブルーチーズをすこし出しておいてくれ」
 「カシコマリマシタ。わいんハイカガナサイマス?」
 「任せる」
 「オソレイリマス」
 ヨグムンドは表情を変えなかったが、魔王の信頼を密かに喜んでいた。
 「他ニゴ用ハ?」
 「うむ…
 「そうだな」
 魔王は開いたページを指で叩き、目を上げた。
 綴じ込みのハガキが、ぴろん、と立っている。
 ちょっと考え、
 「これを取り寄せておいてくれ」
 といくつか仕切られたワクの一つを指す。それは通信教育の案内ページだった。
 「コチラデ、ゴザイマスカ?」
 テディが丁寧に確認する。
 そこには、ムダにうれしげな書体で、
 『2週間でケーナが吹ける!!』
 と、書かれていた。
 「それだ」
 魔王は簡単に頷いた。
 「カシコマリマシタ、仰セノヨウニイタシマス」
 「うん」

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