光の杖(WJ封神演義・天化×太公望)



終章 喪失


 日が昇る。
 晴れやかな曙光が、少しずつ世界を染め上げていく。
 バラ色の光彩に導かれ、大気がやわらかく目覚める…
 美しい朝だった。
 たとえ大地が、悲しみに満ちていたとしても。
 「……」
 光の尾が、
 ひとつの存在がうすれ消えて行く空を、太公望は突っ立ったまま
見上げていた。
 見上げ続けていた。
 のろのろと歩む時の中、彼はずっとそうして立っていた。
 やがて城門の方が騒がしくなったが、認識は知覚に追いつかなか
った。
 ふかい虚脱。
 自分の両手を見下ろした。手袋が血で汚れている。
 歴史とか、理想とかでなく、自分のために流された天化の血…
 唇が動いた。
 「…わしに…」
 かすれた声が、清涼な風に震え揺れて消えていく。
 「ついてゆくと言ったではないか。わしの手には、光る杖が宿っ
  ていると…
 「天化。
 「うそつきめ………」


                          −了ー


 

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