いんたーみっしょん 


 4号テディベアのユンギスは、このところ少々グレていた。
 親友のメリアンテが殉職した時、彼はとても深刻な喪失感に悩まされたもの
だったが…
 その時は、何とか立ち直ることができた。
 一生懸命慰めてくれた、かわいいアンヌ・マリーのおかげだった。
 しかし。
 小さなテディは、どうやらでっかいカーマイルに好意を寄せている。
 (アンナ、デカイダケノ昼行灯ノドコガイインダカ)
 彼は思ってみるが、あまりにも嫉妬に満ちた意見であることは自分でも否定
しようがなかった。
 カーマイルは曲がりなりにもbQのテディで、
 魔王にも信頼されて森の管理を任され、
 背も高いし、
 左右の目の位置がわずかにずれてて、困ったような顔になっているところが
かえって愛嬌になっている。
 (チッ)
 それに比べ、自分は取り柄なく半端だ。
 テディ頭は別格としても、カーマイルほど魔王に、ボルシェほどヨグムンドに
信頼されていないbS。
 おまけにふられんぼ、と来た。
 これはもう、グレるしかないだろう。
 ユンギスは中庭の隅の茂みに隠れ、ポケットを探った。
 四角い包みを取り出す。
 震える手で包装をはがした。
 烏のティータに頼んで手に入れて来てもらった、ご禁制の品。
 煙草である。
 魔王は煙草が嫌いなので、殆どが食事に関わるテディーズは特に厳禁されている。
 ティータにこっそり頼むのにはだから、服の金ボタンを3つもやらねばならなかった。
 「バレたらこっちの足元にも火がつくんだゼ…」
 ってな調子だ。
 「コレガたばこカ…」
 テディは一服つけながら、ボタンをなくした言い訳を考えることにした。
 ヨグムンドは甘い相手じゃない。
 「サーテ…」
 煙草を一本抜き出した。
 くわえてみる。
 ドキドキした。
 これが、フリョーってやつか。
 「…ウーン…?」
 でもしかし、別になんということもない気がする。
 何か、煙が出るものだと聞いているのに、それもないのだ。
 彼は、煙草には大抵火をつけるものだということを知らなかった。
 魔王はどうしてこんなものを禁じているのだろう?
 「ツマラネエ…」
 わざと乱暴な口調で呟いてみる。
 虚無的な感じが気に入って、何回か繰り返した。
 いいかもしれない。
 「ソコデ、ナニヲシテイル」
 突然、厳しい声がした。
 「!?」
 ユンギスは慌てて立ち上がる。
 すーぱーマズい。
 ヨグムンドだ。
 「君ハゆんぎす君。
 「コンナトコロデ何ヲシテルンダネ?今ハ休憩時間カ?」
 「ア…ハハ、ハア…」
 狼狽する足元に、煙草がぽとりと落ちた。
 「ン?」
 テディ頭が屈んでそれを拾う。
 (ヒー)
 ユンギスは、【ヨグムンドの実験室】行きを覚悟しかけた。
 「コレハ何ダネ?変ナニオイダナ…」
 「…ハ?」
 4号テディの肩から力が抜けた。
 ヨグムンドは、煙草を知らない 
 (助カッタ…)
 「コ、コレハデスネ。
 「私ガ焚キ付ケ用ニ工夫シタモノデ、スグニ火ガツク…」
 「フーム」
 1のテディが唸った。
 「アノ…?」
 バレたのかとビビるユンギス。
 しかしヨグムンドは、微笑と共に彼の肩をぽむ、と叩いた。
 「イヤ、見直シタヨゆんぎす君」
 「ハ?」
 「君ハドウモ、覇気ニ乏シイノデハナイカト思ッテイタノダガ…
 「コンナ風ニ生活ニ工夫スル知恵ガアルトハ」
 話がおかしな方向へ流れている。
 ユンギスは何をどうしていいものやら見当がつかなかった。
 「君ノ努力ハ覚エテオコウ。コレカラモ頑張ッテクレタマエ!」
 「ハ…ハイ…」
 満足そうに、テディ頭が去っていく。
 不良を目指したbSは、しょせん半端な自分を十分に自覚した。
 どっちにしても、自分は正当に評価されないらしい…
 だったらマジメにやってる方がいっそ気楽だ、と思った。
 テディもけっこう色々ある。

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