ちゃぷたー9・Over The Night

 「あああ…」
 大荷物をしょった橘が、至福の表情で最後尾をよろよろ歩いている。
 「たっちー、エトナ出てからずっとヤバいけど…だいじょぶ?」
 紅於が桔梗に囁く。
 「はあ…害はないとは思うんですけど」
 「たぶんー」
 方士も幻想師も自信なさげだ。
 後ろでは服飾家がまだ夢に遊び、何事かブツブツ呟き続けている。
 「上等のウール製品に幻の縞木綿に超レア一点物の手染め草木…
 「幸せ過ぎる…っ」
 天へ差し上げた手の小指がぴくぴくしていて、たいへんにキモチワルい。
 「ど…どーにかして…」
 桂が音を上げた。
 そこへ、
 「わーっ、桂さん!!」
 突然葵が叫んだ。召喚士に飛びつく。
 「なな、何事!?」
 「前、前!」
 「へ?…うわ」
 すっ転がった足元に風が立つ。
 そこは断崖の、端だった。もう二歩も歩けば真っ逆様ってくらいに。
 「あっ、ごめんねー。そっかー、人は飛べないんだったわねえ」
 妖精が中空で頭を掻いている。
 出し入れ自由の羽根は、トンボに似た透明な虹色だ。
 桂は溜め息をついた。
 「ありがと葵くん、助かった…」
 「レディを守るのは騎士の務めです!」
 剣士が誇らしげに答える。
 彼は家伝の宝剣を継承するために、剣と人格の練磨の旅をしているという
おぼっちゃまだ。
 「ところでさあ…」
 駆け寄って来ていた紅於が、一同の注意を促した。
 「ここ、どこ?」
 はるか眼下に、青く澄んだ湖面がやさしい風にさざ揺れている…
 魔王が住むという森の、影もなかった。


 それから、『気をつける』と『今度は大丈夫』と『次こそ絶対』、
『もうこれっきり』に次いで『笑う門には福来たる』を経て、ようやく一行は
鬱蒼と拡がる暗い森の入り口へたどり着いた。
 手持ちの食料が乏しくなりかけていて、さすがの6人もやや元気を失っていた。
 「ほぉら着いた♪」
 「ま、まあね…ちょっと、時間かかっただけでね。結果的にはね…」
 イバる蜜柑への、桂のツッコミもイマイチだ。
 「あ、そうだ」
 ぱみ。妖精が手を打ち合わせる。
 「この森ね、門番がいて、何か問題を出すらしいの。それクリアしなきゃ、
森に入れてもらえないんですって」
 「えー、めんどくさー」
 「早く言ってよ」
 紅於と桂が肩をすくめる。
 「燃えるシチュエーションですね!」
 葵はちょっと浮いている。
 「どんな問題なんですか?」
 尋ねる桔梗に、妖精は首を傾げて見せた。
 「知らない。何か、心の問題とかって噂だけど」
 「心。抽象的だねえ」
 紅於が宙を見上げる。
 「行ってみればわかりますよー」
 蓮の声は、ちょっと先から聞こえた。
 もうスタスタ森に入りかけている。
 と思ったら、橘が急に妹を引き戻した。顔色が悪い。
 「どしたのたっちー」
 「門番って、アレ…ですか?」
 背後を指すのを見れば…
 もやもやと黒い影が集まり、だんだん何かの形を成そうとしている。
 「で…でか」
 紅於が呆れた。
 「身の丈10m強ってトコですね…」
 服飾家はサイズに強い。
 輪郭がはっきりした。問題を出す番人と言えばモロ定番、スフィンクスだ。
 背景が黒々とした森なので、たいへん浮いている。
 強い視線が、じろりと一行に当てられた。
 次いで、足元に立て看板が現れる。
 『私に話をさせろ』
 「へ?」
 「いーけど…聞くよ?ねえ」
 ヴォイサーと召喚士は、その場にすとんと座り込んだ。皆も続く。
 「さあ、思う存分話したんさい」
 だがスフィンクスは何も言わない。
 何か言いたげではあるのだが。
 「何にも言わないね」
 十分後、紅於が伸びをした。
 「あたし、幻術使ってみましょーか。
 「自白効果のある術があるんですよー」
 「イヤそれは」
 巻き添えを恐れ、誰も次元幻想師に賛成しなかった。
 桂が眉を寄せる。
 「んー。そもそも、カリスマ・ヴォイサーを招待してんだよねえ」
 「うん?」
 「アレにさ、話せってヴォイスで命令してみる。そんで、アレが話したくなったら」
確かにヴォイサーだって証拠、とか。
 「それだと、心の問題って噂にも一致しない?かろうじて」
 「そっかー。やってみるね」
 ハンドスピーカーの出番だ。
 「やあスッフィー!初めましてだね、ごきげんはいかがかなっ!?」
 紅於は緊張のせいか、セリフが変だ。
 「立て看を見れば何か話がある様子だけども、遠慮はいらないよっ。
 「どんっどん!語ってくれたまえ 」
 そして決め。ジーザスクライストスーパースターのつもりが、ついうっかりテクテクンになってしまった。
 どん!
 返事は、雷撃だった。ヴォイサーの手前50cmの地面がぷすぷす煙を上げる。
 「違うらしい、ですね」
 葵が冷や汗と共に呟いた。
 「じゃどうすんのー。話させろって言うから聞くって言ってるのに」
 「スッフィーは、何かの理由で、話したいけど話せないんですよね?」
 桔梗、早速愛称(?)を使う。
 「魔王に禁じられてるとか?」
 「それじゃ、あたし達お手上げだよ。そもそもそこへ行けないんだもん。
 「うーもー!ひと呼ぶなら、門開けといてよー 」
 ヴォイサーはキレかかっている。
 「…何かの理由…」
 橘が、何となく繰り返す。
 そちらへ視線を移した紅於が、ちょっと止まった。
 「どうしました?かえさん」
 「それ…」
 と指したのは、服飾家に預けたノドドリンクのビン。
 「へ」
 「話したいけど、声が出ない!」
 桂が手を拍った。
 「試してみましょう!」
 服飾家は、ビンを葵に押しつけた。
 「え、え!?」
 「ガンバレ葵くん!」
 紅於が応援する。スピーカー持って。
 「ちょ、ちょっと。ヴォイス使わないで下さい!足が勝手に…」
 ととと。剣士が駆け出す。
 「あ」
 かけっ。何かにつまずいた。
 違う。引っ掛けられたのだ。両脇に、服飾家と幻想師が座り込んでメジャーの
端と端を握っている。
 ノドドリンクのビンが空を飛んだ。
 画獣方士の描き出した大鷲がそれを空中で数回、最後に強くつつく。
 かぃん! 
 フタが飛び、ビンがひっくり返った。
 金色の液体は、見事に番の怪物の頭上にぶちまけられた。
 召喚士は2体の小猿を呼び出した。両側からスッフィーの口を開けさせる。
 しーん。
 数秒は何も起こらなかった。
 ふと、空気が揺れる。
 「ヲホホホホホホ」
 カン高い、金属の軋むような声が笑った。
 「やっと、やああっと喋れるんですわあ!
 「タチの悪いノド風邪にやられてから声が出ませんでしたけど、今!
   完っ・全・復・活!ですわ!!」
 スッフィーは大口開けて言い放ち、また笑った。
 「ありがとうね貴方たち、あたくしに喉のお薬下さって!ホラ、
目は口ほどに物を言う、って言うでしょ?
 「だから今まで来た人達にも、必死で念じて視線を送ってみたんだけど、
 「ん・もう誰一人!わかってくれなかったのよ」
 あのニラミはそれだったのか。
 「い、いや…
 「それなら、立て看に喉の薬が要るってお書きになれば」
 女なら怪物もおっけーなのか、橘が丁寧に言う。
 「まッ!
 「やあね、あたくしに、あからさまにものをねだれって仰るの!?」
 「……」
 流石のくいだおれ一座も、声もなかった。
 「まあ…とにかく…」
 気を取り直そうと前向きに努力する桂。
 「通過おっけー、だよね?」
 尋ねる紅於に、スッフィーは、にんまり笑って前肢で大きなマルを作った。



 「…でっかー…」
 紅於は魔王の居城の練鉄の門を握り、宙にはえー、って溜め息を吐いた。
 「すごいハデねえ…」
 蜜柑も同様だ。
 深い森を抜けて目にした魔王城は、広壮かつ装飾過多だった。
 門からのたくり続くだら長いアプローチの向こうに、白いファサードがかすんでいる。
 「なるほど」
 桂が、横の木から枯れた小枝を折り取って呟いた。
 蜜柑が最初に言った通りだ。
 城までの一本道を進むにつれ森は枯れ、この辺りはもう葉をつけている木すらない。
 実を結んでいる頃の果樹も丸坊主、普通森で見るような茸も鳥獣もまったく見ない。
 外縁部になまじ緑が濃いだけに、それは奇怪な光景だった。
 大地が、魔王の城に力を吸い取られてでもいるかのようだ。
 葵が唾を呑み込んだ。
 「行きます、か?」
 無意識に剣をいじっている。
 「行きましょー♪」
 蓮の明るい声。
 「うん!」
 ヴォイサーは絢爛たる食卓の夢を見ていたらしい。口の端にヨダレがにじんでいる。
 「スッフィーから、知らせが行ってるかもしんないけどねー」
 とスピーカーを握った。
 「んーんー」
 喉の調子を整え、
 「まーおうさー…」
 ま、まで呼ぶ前に、空気に魔力の伝わる気配がした。門が音もなく開く。
 「やっぱり知ってたみたいですね」
 桔梗は門扉の上部についた鷲のレリーフばっかり見ていたので、つられてもう敷地内へ入っている。
 橘が静かだと思ったら、尖塔の旗の意匠に必死で目をこらしているようだ。
 紅於は、思い切り息を吸い込んだ。
 城へ続く道を指す。
 「さあっ、
 「ごはんだ!!」


 かつーん…
 唯一底の固い剣士の靴の下で、石床はひどく冷たい音を立てた。
 やはり自動的に開かれた大扉をくぐり、一行は城の中へと足を踏み入れる。
 ホールは昼間だってのにうす暗い。
 壁に取り付けられた燭台に火が入った。奥へ向かって次々に明かりが点る。
 「ふわー、やっぱ広いねー」
 紅於が、高い天井へ嘆声を放った。
 中も装飾的だった。
 だが全体的に直線が多用され、豪奢な割に印象が散漫にならない。
 「魔王様、結構きっぱりした性格なのかもしれませんね」
 桔梗が言う。緞張の生地やら刺繍やらを撫でさすっている弟をはがしながら。
 「姉さん後生だから離してくれ、もう今時こんな生地おいそれと見られないよ…」
 「お誉めに与って光栄だね」
 夜に似た声がした。
 いつの間にか、正面の扉の前に人影が立っていた。
 つややかなビロードの上衣も肩を覆うチュールもすべて黒、金や銀の装飾が
華やかに厳めしい。
 黒髪はゆるくウエーブしながら流れ落ち、こめかみには牛に似た角が覗いて
いる。
 まだ若そうだけれど、それは信じていいものかどうか。
 「あ、魔王様?」
 「いかにも。君が、カリスマ・ヴォイサーの紅於ちゃんだね」
 「うんっ!そんでね、桂ちゃん桔梗さん蜜柑ちゃん橘くん蓮ちゃん葵くん。
ちょーど6人♪
 「ご招待ありがとう!」
 「どういたしまして。お目にかかれて嬉しいよ、ご一同」
 魔王は意外にやわらかく笑いかけてから、視線を服飾家に戻した。
 「その布は古道具屋で安く買ったんだが、掘り出し物だったと満足している」
 「これを古道具屋で!買い物がお上手だ」
 「ありがとう。
 「さ、長旅で疲れたろう。夕食までは間がある、部屋でくつろいでくれたまえ」
 指を鳴らすと、暗がりからすうと影が二つ現れた。
 魔王の使い魔か。
 とよく見ると、
 …ぬいぐるみの熊だった。
 桂が叫んだ。
 「シュタイフ社のテディだ!しかもボタンドイヤー!めずらしー」
 「ふむ。
 「さすがにカリスマ・ヴォイサーのお連れには、見る目のある者が揃っているね。
 「素晴らしい。楽しい晩餐になりそうだ。
 「では後程…」
 魔王ディナリはゆったりと身を返し、正面の扉へ向かう。
 一行は弾むように歩くテディのあとについて、袖階段を上がった。
 二人ずつ客間に案内される。
 荷物を置くと、何となく紅於と桂の部屋に集まった。
 「でも、意外だったな。
 「たっちーって、男なら誰でもダメってわけじゃないんだ」
 「そんなハズないんですけどねえ」
 「かえさん、姉さん…
 「いや何か、魔王様には相通じるものを感じるというか」
 橘の言葉に、みんなあっさり納得した。
 確かに、収集癖や趣味が近そうだ。
 「あ、魔王様」
 窓の外を見ていた桂が呟く。
 「何してんのかな」
 黒衣の姿は、中庭に立って片手を宙へ伸ばしている。
 ばさり、と羽を打つ音がして、そこへ一羽の烏が舞い降りた。
 くわえていた物を魔王の手に渡す。
 ぱんぱんに膨らんだ皮袋のようだ。
 「お遣いドリ?使い魔、ファンシーなのだけじゃないんだね」
 「ってゆーか、あの量…」
 桂が次々に現れる動物の列を指す。
 手(肢)に手に一杯に食材の入った籠や袋を持ち、魔王の前に並んでいる。
 「どうぶつー」
 桔梗は窓にはりつき、一心不乱にスケッチを始めた。
 「森を食い尽くしそうな勢いですね」
 葵が呆れる。
 「確かに…
 「ん」
 同意した桂が、そのまま宙を見上げた。城の周囲から、枯れ始めている森…
 「ほんとに食い尽くしてるのかも」
 「魔力じゃなくて、食欲の影響で森が枯れてるの!?」
 蜜柑が叫んだ。スゴすぎる。
 「……
 「ごはん、楽しみだねっ」
 紅於は、努めて明るく言った。


 日暮れが近い。
 室内の明るさが落ちてきた。
 ぼ。
 いきなり壁や家具の上のランプが点り、空になった果物の器がつるりと光る。
 「うわ、勝手に火つきましたよ」
 葵は慌てた拍子に、持っていたカードをばらまいてしまった。
 「何言っとるん。
 「ここ入った時もそうやったろ」
 橘、やはり男には冷たい。
 弱い月光に浮かぶ枯れた森はさすがに不気味で、桔梗が窓のカーテンを引きに行った。
 と、軽いノックの音。
 応えると、案内のテディがドアを開いた。
 蝶ネクタイをしている。
 「オ食事ノ用意ガデキマシタ」
 再びぬいぐるみに従って階下に降りた。
 大きな樫づくりのドアから、広い食事室に入る。
 中央の大テーブルはなるほど8人がけ、だから人数の制限があったものらしい。
その上に、一行はこぼれんばかりのごちそうの幻を見た。
 もうすぐ、現実になるのだ。
 奥の飾り棚の前にいた魔王が、一同にテーブルを指し示した。
 「さあ諸君、座ってくれたまえ。食事を始めよう」
 「うんっ 」
 全員がテーブルにつき、まずは食前酒。
 『かんぱーい♪』
 食事が始まった。
 前菜はトマトのムース。
 テディたちが次々に料理を運び込んで来るが、身長が足りないのでテーブル上に
ジャンピングシュートする。豪快で正確だ。
 「山海の珍味っ…!」
 紅於が、選択に誤りはなかったのだと涙した。
 「すごいねっおいしいねっ」
 バジリコローストチキンにかぶりつき、ほりょほりょ言う。
 左手はカクテルシュリンプをしっかりつかんでいる。
 「このソースがなんとも…」
 桂が鹿肉のステーキにうっとりしている。
 「んーっ」
 山ブドウと温野菜のサラダを取り分けるのに、蜜柑は手が届かなくて羽を使う。
 山鳥を切り分けている葵の食事風景は、さすがにおぼっちゃまらしく品がいい。
ただまあ…やっぱり、食欲は他の連中に劣っていないが。
 桔梗はもう遠い夢の国の住人。
 あちらこちらの皿に目移りしながら、ほんわかしている。
 蓮も似たようなものだ。
 橘が、シチューの皿を離さないまま顔を上げた。
 「そう言えば僕、魔王様に伺いたいことがあるんですが」
 「ん?何かな?」
 「【光速の針】というものをご存知でしょうか?」
 「光速の針…
 「あらゆる縫い物を瞬く間に済ませるという、服飾家専用アイテムだね?」
 「そうです!もしや、その在処をご存知では…」
 「うーむ…旧大陸の豪商が手に入れたとか入れないとか聞いたが」
 「たっちー、それ探して旅に出たそうなんですよ」
 桂が言えば、
 「ええ。見つけるまで帰らない、って家は愚か町内中に宣言して来たんですよ、このヒト。
 「意地っ張りだから」
 巻き添えの姉は半分呆れたような、でも納得してもいるような視線をよこす。
 「自分の望みのために努力と犠牲を払うのは尊いことだよ」
 魔王は落ち着き払って口元を拭った。
 犠牲が他者(姉)に及んでもだろうか。桔梗は思ったが、言い出さなかった。
 「魔王様はー?」
 「え」
 ヴォイサーの質問に、晩餐の招待主は虚を突かれた顔をする。
 「食材集めの旅とか、しないの?」
 「…食材集めの旅…?」
 「うん。
 「だってさ、あんまり一カ所で集めてるから、森が枯れ始めてるんでしょ?」
 他の6人が、うわあ、と身を縮めた。
 モロに言ってしまったよ確証もないのに。
 「だからさ、こんな森の奥とかでじっとしてるんじゃなしに、旅しながら
あちこちでいろんな物食べるってのもいいんじゃないかなーって」
 ヴォイサーはスプーンで宙に8の字を描いている。
 「…なるほど…」
 ディナリが、ナイフをテーブルに置いた。
 「カリスマ・ヴォイスで言われると、とても説得力が増すね」
 「そお?ヴォイス関係なしに、思ったこと言ってるだけなんだけど」
 「それがヴォイサーの特長だよ。
 「思ったことを思ったままに言える。だからこそ人はその人格に深みと魅力を感じ、
 その意志に従うことを是とするのだ」
 「えー」
 紅於は照れている。
 あとの6人は、魔王の意外な反応に戸惑いながら黙々と食べる。
 これから、何が飛び出すのだろう?
 どきどきしながら食べた。
 しばらく、食卓は静かだった。
 やがてたくさんの大皿に、料理の代わりに奇妙な緊張が満ちた頃…
 魔王の口元が、ふと綻んだ。
 「…よろしい」
 手のひと振りで、卓上の空皿が消えた。
 テディたちがデザートを運んで来る。
 プチフール盛合せ。これまたハンパな量じゃない。
 はうはう。
 甘いものマスター・桔梗は心拍数が上がっている。状況はどうでもよくなったようだ。
 「悪くない考えだ」
 城主は優雅に髪をかきあげた。
 「あ、あの…?」
 葵が恐る恐る問いかけの視線を上げる。
 「うむ。
 「私も、君たちの旅に同行させて貰おう」
 『はいいい!?』
 魔王様爆弾発言。
 ひとり紅於だけが動じない。
 「うん、いーよー♪」
 「ままま、魔王様、本気ですか!?かえさんも 」
 橘はうろたえているが、桂は無言だ。
 だって、止めたって聞きゃしない。
 「本気だよーん。
 「魔王様入りパーティなんて、きっと史上初だよ!」
 「うむ、楽しそうだな。
 「各地の名産特産を貪り尽くす食の旅…」
 「いや、尽くすな」
 桂、
 でもやっぱり、
 ツッコミは我慢できなかった。


 ともあれ。
 どうやらこの夜を超えて、新しい旅が始まるようだった。




                      −ってわけ−

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